2021.11.10
#01
道具は人間が使うもの。
活かすのは職人次第。
神野工務店 神野靖浩さま 神野あり斗さま
変化する現場と変わらぬ心構え
兄の教えを息子に繋ぐ、建築現場の父子鷹。
「現場は常に一緒です。同じ家に住んでいるので、朝2人で車に乗って現場に行って、時間になったら2人で帰る。息子にとっては相当きついじゃないですか(笑)」そう語るのは父であり、親方でもある神野靖浩さん(58歳)。神野工務店(東京都目黒区)を設立し、主に注文住宅を手掛けるこの道40年の職人だ。
一方、息子のあり斗さんは30歳。大学を卒業してから、父の背中を追うように職人の道を選んだ。10代の頃から休みの日などを利用して父の現場を手伝い、当然のように「やってみたいな」と、思ったという。靖浩さんは「息子が大工になるって聞いたときは正直驚いた」と言いながらも息子の成長に、若かりしころの自分を重ねているようでもあった。
「昔から大工の世界は丁稚奉公からはじまり、5年で年季明け、そこからお礼奉公をだいたい1年、2年し、7年目、8年目ぐらい経ってようやく一人前。職人の世界は親方・子方からなる縦社会で、朝現場に着いて車から道具を下ろしてお茶を一服。今どきは缶コーヒーですけど、それを準備するのは子方の仕事です。そういったことはすべて、先に大工になった兄貴から教わりました。今でも兄とはたまに同じ現場になりますけど、独立して親方になってみて、あらためて教えてくれたことのありがたみが分かりました」
靖浩さんとあり斗さんが同じ現場で働くようになって7年。靖浩さんは親方として「自分が同じぐらいの年季のときとは現場のやり方も雰囲気も違うけど、まあまあ、できている方だと思う。まあまあ、ですが」と、厳しいながらも、息子であり弟子でもある、あり斗さんの存在を頼もしく感じていた。
現場に求められる安全性と効率化。
電動工具がそれを後押しする。
長年現場で働いていると、人も道具も、建築を取り巻く環境がどんどん変わってきた。そう感じる靖浩さんは、大工の仕事を「昔は段取り七分で腕三分。今もう段取りが八分」と語る。
タブレットでの工程管理や図面の確認、スマホでの入退場に作業報告など、職人の世界でもデジタルによる技術革新が進んでいる。それは、大工道具についても同じこと。靖浩さんは、電動工具メーカー各社から発売される新製品すべてに目を通すという。
「もしかしたら営業さんよりも情報が早いかもですよ」。道具好きは兄譲り。早くからコードレスのバッテリー駆動式電動工具を導入していた。“道具の進化が現場の効率化に直結する”という考えは、昔から変わらない。「安全は第一。大工は当たり前のことをやって、はじめて評価されるんで、安全や品質管理はもうできて当たり前なんです」。そこに“効率化”を加えるためには、道具選びが重要な鍵となる。
「最初に1台買って試してみて、いいなと思えば同じものを2台3台導入します。良い道具は何個持っていてもいいってことです。例えば釘打機ならば、釘に合わせて複数台用意する。また、電動工具それぞれのバッテリーもいちいち差し替えない。それが作業効率に直結するわけですから。
現場は空中配線を徹底しています。配線やコードなどを足元に置かないのがルールで、コードレスならばそもそもつまずくことも転ぶこともない」言わば、安全性と効率化が理にかなったのがバッテリー充電式の電動工具であり、神野工務店では欠かせない存在となっている。
道具は人間が使うもの。
活かすのは職人次第。
各社ともに電動工具の数が少なく、まだまだ黎明期だったころからいち早くメリットを見出し、現場に導入。その後に続く新製品のリサーチも欠かさない。仕事場にHiKOKIのデモカーがやってくれば、積極的に試用して率直な感想を伝える。良いところはもちろん、改善してほしいなどのリクエストも遠慮なしだ。だが、父と子では電動工具の好みが異なるという。
例えばネジ打機。靖浩さんはHiKOKIの最新モデルを使用するが、息子のあり斗さんはひとつ前のモデルを愛用する。その理由を「入りがいいから」と、自分の感覚、腕にあった繊細なフィーリングを大事にしたいと語る。
また、あり斗さんは使わないBluetooth®付きマルチボルトを使用したインパクトドライバの専用アプリを、靖浩さんは積極的に使用する。
「インパクトは加減が大事なんでね。アプリだと微調整が効くので、これはあった方がいいかなとは思います」と、新製品や新しい技術を徹底的に使いこなす靖浩さんは、まるで電動工具のスペシャリストのよう。一方のあり斗さんから見ると「新しいもの好きなんですよ」と、父と子、親方と弟子でも好みが違うのがおもしろい。
※Bluetoothとそのロゴマークは、Bluetooth SIG,INC.の商標です。
昔の電動工具でも
良いのがたくさんある。
数々の電動工具を試してきた靖浩さんだが、中でもHiKOKIのマルチボルトは画期的だったと語る。バッテリーの持ちもさることながら、18V、36Vどちらの道具も使えることが、マルチボルトシリーズ導入の決め手だった。
「ここまでパワーがあるものが出るとは思わなかった。しかも今まで持っていた電動工具も使える。やっぱり、昔の道具でも良いものがいっぱいあるんでね。これはHiKOKIじゃないとできない」
靖浩さんは、さらに電動工具に求めることを「パワーとコンパクトさの両立」だとつなげる。
「丸のこなどの回転工具はパワーが大事。インパクトドライバなどの掴み道具は軽ければ軽いほど良いんです」
最近では手まわしの感覚で使える10.8V製品のインパクトドライバも活用しているという。その理由を聞いてみると、長年現場で立ち続けてきた“想い”がそこにあった。
あなたにとって職人の道具とは。
「私にとって道具は命ですね。年齢とともに体力も落ちてきているので、昔以上に道具に頼らざるを得ない自分がいる。良い道具で良い仕事をいかにこなしていくかが、今後の職人人生の最後だと思います。新しい道具で、納得いく仕事を続けていきたいと思います」
そう靖浩さんが語れば、あり斗さんは一瞬考えたのち、こう言葉をつないだ。
「昔の職人さんがどのような道具を使ってきたかは、詳しくわからないですけれども、今は、電動工具を使って、仕事をきれいに早くやることが大事だと思います。僕にとってはなくてはならないものです」
かつて兄から叩き込まれた職人の世界。時を経て、親から子へと受け継がれていく。技術の伝承は、時代に応じた柔軟な対応が重要だ。変化を見極め、時代に合わせて新しいものを積極的に取り入れていく姿勢は、神野工務店をさらなる高みへと進化させ続けている。